春の聲
真綿の原
軽やかに
まだ眠る 木々 花の芽
寒い寒い凍てつく冬に逆らわず
春の陽を 風を 光を待ちながら
もうすぐ春だよ
真綿の原
先に咲くは
無邪気な仔犬の歓びの歌
はずむように 描かれた
花のような足跡
音階が咲き乱れる
春を呼ぶ楽譜のよう
雪がしんと広がる大地
真っ先に春を知らせたかった
香りを放つ 梅の花
薄く蕾を揺らして微笑う
ほら、
春が来る
仔犬の音符は自由に舞う
足跡は 地に咲く六花
春を呼ぶ
やわらかな陽射し
風も 空も
地に咲く六花に微睡みながら
春が来るよ
もうすぐだよ
楽しいよ
さあ、目をあけて
春がそこにいるよ
新しい春を運ぶ花はやがて色をつけ
それぞれに美しく
上を向いて誇らしく
春を知らせるだろう
冬 音もなく ながれて
薄氷を幾重にも重ねたように危うく張り詰めた夜空。
銀色にやわらぐ六花が降りてくる。
ふわり ふわり
斬りつけるような冷たさを
夜空のどこに置いてきたのか。
髪に、肩に、頬に
六花は、輪郭を失いながら
この身に染み入るように
冬の形を溶かしてゆく。
やわらかな春を夢見るように、
白く輝く月が映す夜空に帰る星のように、
六花 舞う。
冬に六花 舞い上がり舞い散る
分厚く透明な 氷の窓が 寒々と
数多の景色を囲むような 夜。
銀色の月が、ぽかりと浮かぶ
深闇の中。
しゃらしゃらと降るのは、氷の窓を削り、月明かりを纏った六花。
ひとつとして同じ形のない冬の花。
肩に落ちて儚く消えていくその月灯の結晶を、ただぼんやりと見つめる。
上を見上げると、まるで夜空に吸い込まれていくようで。
六花が降る 降る。
一陣の風に軽やかやに舞う。
身体ごと、一緒に六花と空に帰ってしまいそうな。
不思議な景色。
髪に、肩に、てのひらに。
真綿を包むは月の光。
こんなに美しい 白
いっそ、六花に埋もれて、春に誰かを癒すような、白い花に生まれかわれたのなら…