きみの世界
その瞳に映るもの。
平凡な空。
風の波に
列を成して流れていく渡り鳥。
塀に寄りかかるように
時折首を揺らす名前も知らない花。
屋根の上で跳ね回るのはきっと烏。
小さな窓から見える水平線。
毎日が同じ事の繰り返しなのに…。
心の呟きは、きみには届かない。
生まれてきてから、同じ色の空はないよ?
ねぇ、風にも色があるよ?
遠くにある海は本当は何色なの?
雲がゆっくり空を歩いていくよ?
空から落ちてくるのは、いつも飲んでいる水と何が違うの?
小さな花のかおりと、大きな花のかおりが全然違うよ?
面白いね。
毎日が楽しいね。
あなたがいつも笑っているのはおんなじ
だね。
おんなじなのも好きだよ?
きみの目には太陽が溶けている。
木々の影が揺れている。
きれいな目だね。
言葉や返事の代わりに、
きみは長い尻尾を揺らしたり、ぴんと真っ直ぐに伸ばしたり。
きみの目で見る世界は、いつも楽しそうだね。
満月
山から降りてくる風が
縦横無尽に駆け回る。
空には薄衣を纏う銀の月
海に向かって走る山風。
夜の闇。闇よりも深い視線の向こう
黒く沈む海に銀の飛沫。
今宵
満月
風はやがて月に向かう。
薄衣が、真綿のように頼りなく揺れて。
朝に近づく月の色。
白く 淡く 夜空のむこう、はるか、雲間に揺れるは
金のはかなき色の香。
柔らかき満月
やがて海にもこの色を風が運んでいくだろう。
銀色の飛沫に照り返す金色の月。
夜はまだ そこにとどまり。
銀の雫を照らして編み上げたような星が
一斉に輝いたあと、またゆっくりと舞台を降りてゆく。
月のあかりは、星の瞬きとともに、
ゆっくりと空を流れてゆく、
朝になればまた、新らしい空が現れる。
現れた空は消える事はなく。
形を、 色を、
季節の色に染めて朝も
昼も
夜も
同じ夜はもう見えず。
毎日が生まれ変わる空に
毎朝、夜
目を奪われる。